「なんで涙が出るの？」――子どもにそう聞かれて、うまく答えられなかった経験はありませんか？
実は涙には、目を守る働きだけでなく、感情と深く結びついた大切な役割があります。
本記事では、子どもにもわかりやすく「涙が出る理由」を伝える方法をやさしく解説。心との関係や成長に伴う変化、親としての関わり方まで、科学と心理の両面から丁寧にご紹介します。
涙が出る理由と心との関係
涙が出る理由とは？
涙は、私たちが日々生活する中で自然に分泌されるものです。
目の乾燥を防いだり、ホコリやゴミといった異物を洗い流したりするために欠かせません。これが「生理的な涙」です。
しかし、涙にはもう一つ重要な役割があります。それが「感情に反応して出る涙」です。
たとえば、悲しいニュースを見たり、感動的な映画を観たりしたとき、自然に涙があふれる経験をしたことがある方も多いでしょう。
このように、涙には「体を守る役割」と「心を映し出す役割」の2つの側面があるのです。
心の状態と涙の関係
心が大きく揺さぶられたとき、涙は感情の出口として現れます。
「うれしい」「悲しい」「悔しい」「こわい」「感動した」など、人の感情が高ぶったときに涙が流れるのは、その感情を外に出して心を整えるためです。
特に子どもは、自分の気持ちをうまく言葉にできないことが多く、感情を整理する手段として涙を選ぶ傾向があります。
つまり、子どもが泣くのは、まだ言語での表現が発達途中であるからこそ自然な行動とも言えるのです。
泣くことを叱ったり否定したりするのではなく、「気持ちをうまく出せてえらいね」と受け入れることが大切です。
涙の役割と重要性
涙はただの「水分」ではありません。
涙の中には、リゾチームという殺菌作用を持つ成分や、目の表面を保護するムチン、油分、電解質など、複数の役割を担う成分が含まれています。
また、感情が引き金となって出る「情動性の涙」には、ストレスホルモンや不要な老廃物を含むとも言われており、体と心のデトックスのような働きもあるのです。
泣いたあとは気持ちがスッキリしたり、眠りにつきやすくなったりすることがありますが、それは涙によって副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られるからです。
悲しいと涙が出る仕組み
私たちが悲しい気持ちになったとき、脳の「視床下部」や「扁桃体」などの感情を司る領域が反応し、自律神経に働きかけます。
これにより、副腎から「副腎皮質刺激ホルモン（ACTH）」や「ストレスホルモン（コルチゾールなど）」が分泌され、涙腺が刺激されるのです。
つまり、涙が出るのは単なる反射ではなく、心の動きが体に伝わった結果とも言えます。
子どもが悲しくて泣くのは、自然で健康な反応であり、「泣ける」ということ自体が、感情の感受性や脳の働きがしっかりしている証拠でもあります。
子どもに教える涙のメカニズム
子どもに「どうして泣くの？」と聞かれたとき、「悪いことではないよ」「泣いても大丈夫だよ」と安心させてあげましょう。
さらに、「涙は目をきれいにしたり、気持ちを整えたりするものだよ」と伝えることで、泣くことへの後ろめたさや恥ずかしさが薄れていきます。
「目が乾いたときも出るし、うれしいときも悲しいときも出るよ。気持ちがいっぱいになると、涙になって出てくるんだね」と、感情の自然な反応としての涙を理解させてあげるのがポイントです。
特に敏感な子どもには、「涙は心からのメッセージなんだよ」と伝えてあげると、自分自身を肯定できるようになります。
涙が出る理由の科学的根拠
涙の種類とそれぞれの役割
涙には、主に次の3種類があります。
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基礎分泌涙（きそぶんぴつるい）
目を乾燥から守るために常に分泌されている涙。目の表面を滑らかに保ち、ゴミや細菌の侵入を防ぎます。 -
反射性涙（はんしゃせいるい）
玉ねぎを切ったときや、風・煙・ホコリが目に入ったときに分泌される涙。異物を洗い流すための防御反応です。 -
情動性涙（じょうどうせいるい）
感情が揺れ動いたときに分泌される涙。ストレス物質を排出したり、心を落ち着かせたりする働きがあります。
それぞれの涙は成分構成が微妙に異なり、その目的やタイミングに応じて分泌される仕組みになっています。
涙が出る原因：ストレスと感情
私たちはストレスがたまると、無意識に涙が出やすくなります。
これは、ストレスによって自律神経のバランスが崩れ、涙腺が刺激されやすくなるからです。
子どもは大人に比べて、まだ感情のコントロール力が未熟で、ちょっとした不安や不満でも涙につながることがあります。
保育園や学校での緊張、人間関係の戸惑い、うまくいかなかった悔しさなど、「うまく言えないけどつらい」という感情が涙として表れるのです。
感情が落ち着いたときに、「どんな気持ちだった？」「困ったことがあったのかな？」とゆっくり聞いてあげると、子どもは自分の感情を整理しやすくなります。
あくびすると涙が出る理由
あくびをすると、顔の筋肉（特に目の周りや頬の筋肉）が動きます。
この動きが涙腺や涙の排出経路（涙小管）に圧力をかけ、涙があふれる原因になります。
また、あくびによって眼球がわずかに押されることで、涙腺が刺激されることもあります。
この現象は誰にでも起きる正常な生理的反応であり、病気の兆候ではありません。
子どもが「なんであくびで泣いちゃうの？」と不思議がったときは、「あくびで目のまわりが押されて、涙が出ちゃったんだね」とやさしく説明してあげましょう。
成長過程における涙の変化
赤ちゃんから小学生までの涙の特徴
生まれたばかりの赤ちゃんは、声を上げて泣いていても涙を流していないことがあります。これは決して異常ではなく、生後1〜2ヶ月頃までは涙腺がまだ十分に発達していないためです。涙は少しずつ分泌されるようになり、生後数ヶ月を過ぎると目に見えて涙があふれるようになります。
また、赤ちゃんや幼児期の子どもは、言葉で自分の気持ちをうまく表現できないため、泣くことで感情や不快感を伝えるのが自然な姿です。
たとえば、眠い・お腹が空いた・不安・こわい・構ってほしい…といった理由で涙を流します。
成長して就学年齢になると、徐々に自分の感情を言葉で説明できるようになるため、涙の頻度は減少傾向になります。ただし、心が揺れ動く場面では引き続き涙を通じて感情を表すことがあり、これは心の発達過程において健全なサインとも言えるのです。
片目だけ涙が出る場合の理由
片目だけ涙が出る場合は、以下のような原因が考えられます。
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涙道（るいどう）のつまり（閉塞）
涙は目頭にある小さな穴（涙点）から排出されますが、この通り道が詰まると、一方だけうまく流れなくなります。 -
軽度の結膜炎や目の炎症
目が赤くなる、かゆみがあるなどの症状が見られる場合は、結膜炎が原因となっていることもあります。 -
まつげやホコリなどの異物混入
ごく小さなゴミが目に入っていても、片方だけ涙が出ることがあります。 -
先天的な涙道の未発達（赤ちゃん）
生後しばらくのあいだは涙道が細く、詰まりやすい子もいます。
頻繁に片方だけ涙が出る場合や、目やに・かゆみ・充血などの症状が続く場合には、早めに眼科を受診しましょう。治療が必要なケースや、放置することで悪化するケースもあるため、慎重な観察が必要です。
心の成長と涙の関係
子どもが成長するにつれて、涙は単なる不快感の表現から、感情を整理したり、気持ちを表現するツールへと役割が変わっていきます。
たとえば、「友だちとうまくいかなかった」「悔しかったけど我慢した」「言いたいけど言えなかった」など、心の奥にある思いが涙となって現れることがあります。
大人のように言葉で細かく気持ちを説明できない子どもにとって、涙は心のSOSであり、本音を伝える手段です。
そんなときは、「どうしたの？」「話してくれてありがとう」と受け止めることで、子どもは自分の気持ちに向き合い、少しずつ感情を整理できるようになります。
涙の症状と病気の関連
涙道の閉塞とその症状
涙道（るいどう）は、涙が鼻の奥へ流れていくための通り道です。
この通路が詰まってしまうと、涙が目の中に溜まりやすくなり、以下のような症状が現れます。
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常に目が潤んでいる
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何もしていないのに涙があふれる
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目やにが増える・目が腫れる
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ときに目元に膿がたまることも
特に赤ちゃんの涙道閉塞（先天性鼻涙管閉塞）は比較的よく見られる症状で、多くは1歳未満で自然に治ることもありますが、長引く場合はマッサージや通水処置が必要になることもあります。
病気による涙の異常分泌
涙が過剰に出る背景には、以下のような病気やトラブルが隠れていることもあります。
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アレルギー性結膜炎
花粉やハウスダストに反応し、目がかゆくなって涙が出やすくなります。子どもでは春先や秋口に多く見られます。 -
ウイルス性・細菌性結膜炎（はやり目など）
感染症により炎症が起こり、涙・目やに・充血が伴います。学校や園で流行しやすいです。 -
ドライアイの代償性分泌
目の表面が乾燥していると、脳が「もっと涙を出して！」と指令を出し、結果的に涙があふれてしまうことがあります。
これは「涙が足りない」からこそ「涙が多くなる」という逆説的な現象です。
これらの症状は、自己判断で市販薬を使用するのではなく、眼科での診断が必須です。
眼科での治療方法
涙の異常が見られる場合、症状や原因に応じて以下のような治療が行われます。
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点眼薬（抗炎症薬・抗アレルギー薬・抗菌薬など）
炎症や感染症を抑えることで涙の症状を軽減します。 -
涙道洗浄・ブジー（涙道通水）
涙道の閉塞を改善するために行う処置。特に赤ちゃんや小児で行うことが多いです。 -
マッサージ療法（赤ちゃんの鼻涙管マッサージ）
親が自宅で継続的に行うことによって、自然な開通を促すこともあります。
早期の受診によって、症状の悪化や二次感染を防ぐことができます。
「少し気になるけど様子を見ようかな」と思っている場合も、早めの相談が安心への第一歩です。
涙が多い子どもへの接し方
涙に対する子育てのアプローチ
子どもが泣いているとき、「泣かないで」と思わず口にしてしまうことはありませんか？
しかし、泣くことを否定されると、子どもは「自分の気持ちは受け入れてもらえない」と感じ、次第に感情を表に出すことをためらうようになります。
大切なのは、泣いている理由を受け止める姿勢です。
「どうしたの？」「話してくれてありがとう」と優しく声をかけるだけで、子どもは「自分の気持ちを理解しようとしてくれている」と感じ、安心します。
泣くことを“わがまま”と捉えるのではなく、「感情を伝える手段」として尊重することで、自己肯定感や信頼感の土台が育ちます。
これは将来的に、他人に心を開く力や、トラブルに向き合う強さにもつながっていきます。
心のケアと涙の理解
涙は、単なる反射や反応ではありません。
心の状態をリセットし、気持ちを整理する役割を持っています。泣いたあとに気持ちが落ち着くのは、脳内に「セロトニン」や「オキシトシン」などのリラックスホルモンが分泌されるためです。
特に子どもは、まだ言語能力や自己理解が未発達なため、気持ちが整理できずに混乱することがよくあります。
そんなときに涙が出るのは、ごく自然で健康的な反応です。
親としてできる心のケアは、特別なことではありません。
ただそばにいて話を聞いてあげること。それだけで、子どもは「受け止めてもらえた」「味方がいる」と感じて、安心します。
必要があれば、「そっか、それはイヤだったね」「悲しかったんだね」と言葉にしてあげるのも効果的です。
効果的な対処法と目薬の使用
涙が多すぎて日常生活に支障が出ている場合には、医学的な対応も考える必要があります。
たとえば、目のまわりが濡れてかぶれたり、視界がぼやけて困っているような場合には、次のような対処が役立ちます。
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清潔なガーゼやティッシュで優しく拭き取る
ゴシゴシこすらず、目の外側から内側に向けてやさしく拭くのがポイントです。 -
人工涙液や抗炎症目薬の使用
市販の目薬を使用する際は、必ず子どもの年齢に対応しているか、用法・容量を守って使用しましょう。 -
医師の判断を仰ぐ
涙が止まらない、目やにや赤みを伴う、痛みがあるといった症状が見られる場合は、早めに眼科で診察を受けることが大切です。
物理的な不快感を取り除くことは、子どもの安心感につながり、心の落ち着きにも好影響を与えます。
涙の心理的影響
涙を流すことのメリット
涙を流すことには、実はたくさんの心と体に良い効果があります。
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心の解放につながる
感情が溜まったままだとストレスが蓄積しますが、涙を流すことでその感情が“流れ出し”、気持ちが軽くなります。 -
ストレスホルモンを排出する
情動性の涙には「コルチゾール（ストレスホルモン）」が含まれるという研究もあり、涙を流すこと自体がストレス軽減の一助になります。 -
自律神経が整う
涙を流すことで副交感神経が優位になり、呼吸が深くなってリラックスしやすくなります。 -
共感されることで安心感が生まれる
泣いているときに寄り添ってもらうと、誰かに気持ちを受け入れてもらえたと感じ、人とのつながりや安心感が深まります。
泣くことは「弱さの象徴」ではなく、心の自然な調整作用。そのことを大人も理解しておくことが大切です。
本音を言おうとすると涙が出る理由
「言いたいことを我慢してきた」「本当はこう思っていた」――そんな本音を口にしようとした瞬間、涙があふれてしまうことがあります。
これは、心の奥に長いあいだしまっていた感情が、言葉とともに表に出ようとする自然な反応です。
子どもも同じで、「言ったら怒られるかも」「うまく言えないかも」と不安を感じながらも勇気を出して本音を伝えようとしたとき、涙があふれてしまうことがあります。
そんなときは、「言ってくれてありがとう」と静かに受け止めてあげてください。
それだけで子どもは、「本音を出してもいいんだ」と感じることができ、自分自身に対する信頼感も高まります。
感情の表現と涙の役割
感情を表現する手段はさまざまありますが、子どもにとって涙はとても重要な手段のひとつです。
言葉では表せない「つらさ」や「うれしさ」「寂しさ」などを、涙として外に出すことで感情を解放しています。
このとき大切なのは、「泣いている＝悪いこと」ではないという認識を大人が持つことです。
泣くことを恥ずかしいと感じさせるのではなく、「感情を感じられるってすごいね」「泣くことも大事だよ」と伝えてあげることで、感情に向き合う力・自己理解力が育ちます。
ときには、「今日はうれし泣きだったね」「さみしくて泣いちゃったんだね」と感情に名前をつけてあげることで、感情の語彙力も育つため、心の成長にとってとても有益です。
まとめ｜子どもの涙に寄り添い、心のサインを見逃さないで
涙は、単なる体の反応ではなく、子どもの心のサインでもあります。「なんで泣いてるの？」と問いただすのではなく、「気持ちがあふれたんだね」と受け止めてあげることで、子どもは安心して感情を表現できるようになります。
本記事で紹介した内容をもとに、涙の仕組みや感情との関係をやさしく伝えてあげましょう。涙を通じて心の成長を見守ることは、親子の信頼関係を深める大切な一歩になります。今日から、子どもの涙にやさしく寄り添う声かけを始めてみませんか？
